2025年6月29日日曜日

【書評】重症心身障害児教育の新たな視点『重症心身障害の子どもの実態把握ガイド』


 





 重症心身障害のある子どもたち一人ひとりの可能性を最大限に引き出すために、私たち支援者は日々、試行錯誤を繰り返しています。特に、その子に合った学習目標を立てることは、最も難しい課題の一つです。

今回は、そんな現場の悩みに、確かな指針を与えてくれる一冊**『重症心身障害の子どもの実態把握ガイド』**をご紹介します。

すべての教員にとっての必読書『障害の重い子どもの目標設定ガイド』

本書を語る上で、まず触れておきたいのが、**『障害の重い子どもの目標設定ガイド 第2版』**です。

この書籍は、障害の重い子どもの学習目標を設定する際に、非常に実践的で具体的な視点を与えてくれます。特に、子どもの状態を評価するための「スコア」という考え方は画期的でした。

しかし、現場で活用する中で、一つの課題も見えてきました。それは、評価の段階が「スコア1」「スコア2」「スコア4」となっており、特に反応が微細な子どもたちの状態を捉えるには、尺度が大きいと感じる場面があったことです。「スコア1」と判断するには、まだ少し距離があるように感じる…そんなこともあったことでしょう。

「スコア1」以前の状態を捉える新たな視点

今回ご紹介する**『重症心身障害の子どもの実態把握ガイド』**は、まさにその課題に応える一冊です。

本書の最大の特徴は、『目標設定ガイド』のスコアをさらに細分化し、「スコアL」や「スコア0.5」といった、「スコア1」よりも前の段階が追加された点にあります。これにより、従来の4段階評価が7段階となり、よりきめ細やかに子どもの実態を把握できるようになりました。

  • いつも眠っているように見える

  • 覚醒している時間がとても短い

こうした子どもたちのわずかな変化や反応は、これまでの評価軸では捉えきれないことがありました。しかし、本書で示されている新たな視点とチェックリストを用いることで、**「今はこういう状態だから、次はこういう働きかけをしてみよう」**という、具体的で根拠のある目標設定へと繋げることができるのです。


経験を問わず、すべての人に役立つ一冊

この書籍は、教員経験の浅い方にとっては、子どもの見方や支援の方向性を学ぶための心強い味方となるでしょう。そして、経験豊富なベテランの先生方にとっても、ご自身の経験知を再確認するための素晴らしいツールとなります。

子どもたちの小さな「できた」を見逃さず、確かな成長へと繋げていくためのヒントが、この本には詰まっています。

おすすめの読み進め方

もし、どちらの書籍もまだ読んだことがないという方は、まず**『障害の重い子どもの目標設定ガイド 第2版』から読まれることをお勧めします**。基本的な考え方や枠組みを理解した上で本書を手に取ることで、より深く内容を理解し、現場で活用していくことができるはずです。

著者の先生による寄稿

著者の先生による寄稿が、こちらのnoteで公開されています。書籍への理解をさらに深める一助となるでしょう。 慶應義塾大学出版会【公式】note - 『重症心身障害の子どもの実態把握ガイド』刊行によせて

子どもたちの可能性を信じ、より良い支援を目指すすべての方に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。

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